脊髄刺激療法は、世界でおよそ30万人以上、日本では平成10年に厚生労働省の承認を受けてから現在までに約7,000人以上の患者さんがこの治療を受けています。
SCS(脊髄刺激療法)
脊髄刺激療法とは、脊髄に微弱な電流を流すことにより、痛みをやわらげる治療です。この治療では試験的に刺激を行い(トライアル)、効果を確かめます。効果がある場合に、刺激装置などの機器一式を植込みます(本植込み)。本植込みにより、患者さんご自身が刺激装置を操作し、いつでも自分で痛みをコントロールすることができるようになります。痛みをやわらげることで、日常生活の活動の幅を広げることを目的としています。
脊髄刺激療法のしくみ
痛みの感覚は、痛みの信号が神経から脊髄を通って脳に伝わってはじめて「痛い」と認識されます。脊髄に電気刺激を与えることで痛みの信号が脳に伝わりにくくなり、痛みがやわらぐと考えられています
- 脊髄刺激療法は痛みを緩和するためのものであり、痛みの原因を取り除く治療ではありません。
効果のある痛み
脊髄刺激療法は、神経の異常による痛みや血流障害による痛みなど、慢性難治性疼痛に効果があると言われています。具体的には、手術後に残る痛み、触るだけで痛いまたは焼けるような痛みなどがあります。
主な難治性疼痛
- 脊髄手術後の痛み
- CRPS(複合性局所疼痛症候群)
- 末梢血管障害(ASO(閉塞性動脈硬化症)、バージャー病、レイノー病など)による痛み
- 脊椎・脊髄疾患(脊柱管狭窄症など)による痛み
- 帯状疱疹後神経痛 など
例えば次のような患者さん・・・
・手術で痛みの原因を治療した後も持続的に痛みがあると訴える
・手術適応がない、または実施困難で、根治治療ができない
・薬物治療での効果が不十分である
・薬の副作用が強すぎるので、なるべく薬を減らしたい
・神経ブロックの効果が一過性で長続きしない
・痛みが強すぎてリハビリ治療に支障が出ている
・手術適応がない、または実施困難で、根治治療ができない
・薬物治療での効果が不十分である
・薬の副作用が強すぎるので、なるべく薬を減らしたい
・神経ブロックの効果が一過性で長続きしない
・痛みが強すぎてリハビリ治療に支障が出ている
Good Indication
・頸椎/腰椎術後における上下肢の神経障害性疼痛
・複合性局所疼痛症候群(CRPS)
・末梢神経障害性疼痛
・末梢血管障害による疼痛
・難治性の狭心症
・外傷/放射線照射後の腕神経叢損傷傷Intermediate Indication
・断端術後疼痛(断端痛>幻視痛)
・脊椎術後の体幹部痛
・開胸術後/帯状疱疹後による肋間神経痛
・精髄損傷後疼痛
Poor Indication
・脊髄由来でない中枢通
・脊髄後索機能が消失した脊髄損傷
・会陰部痛及び肛門痛Intermediate Indication
・完全脊髄断裂
・非虚血性侵害受容性疼痛
・神経根引き抜き損傷
脊髄刺激療法の効果
脊髄刺激療法により、痛みが半分程度にやわらぐと言われています。痛みが少しでもやわらぐことによって、日常生活における活動の幅が広がるため生活が豊かになるという効果が期待できます。
- 効果には個人差があるため、通常、効果を判定するための試験刺激(トライアル)を行います。
- リード(刺激電極)の挿入位置により効果が大きく左右されますので、術後の注意事項を守っていただく必要があります。
脊髄刺激療法に使用される機器
使用される機器は、主にリード(刺激電極)、刺激装置、患者用コントローラです。体内に植込まれた刺激装置から電気刺激がリードに送られ、脊髄を刺激します。電気刺激の調節は、患者用コントローラを使って患者さんご自身が行います。
機器一式を植込む(本植込み)前に、治療効果を確認するため、リードのみを挿入して、試験的に刺激を行います(トライアル)。
機器一式を植込む(本植込み)前に、治療効果を確認するため、リードのみを挿入して、試験的に刺激を行います(トライアル)。
1. リード(刺激電極)
- 刺激装置からの微弱な電気刺激を脊髄へ送る電極です。
- リードは硬膜外腔という脊髄を保護している膜の外側に挿入します。脊髄の外側に挿入するので神経を傷つけることはなく、抜去すれば元の状態に戻せます。
- リードを挿入する際は、痛みを支配する脊髄神経にリードの先端をあわせて、痛みに刺激が重なるようにします。
- 効果を確認するために、まずはリードのみを挿入し、試験刺激を行います(トライアル)。
- 刺激を感じない設定と感じる設定があります。ご自身に合った刺激を見つけていきます。
2. 刺激装置
- 電気回路と電池が内蔵されており、治療用電気刺激を発生させます。
- リードのみの挿入(トライアル)で効果が確認された場合に、手術を行い、腹部など目立たない部位に植込まれます(本植込み)。
- 刺激装置には、充電式・非充電式の2種類があります。
- 非充電式の刺激装置の電池が消耗したら、再度手術を行い、刺激装置の交換を行います。
- 非充電式の刺激装置の電池寿命は、設定や使用時間によって異なります。一般的に2-5年程度です。
- 充電式の刺激装置は定期的な充電が必要です。
3. 患者用コントローラ
- 体の外から体内の刺激装置の調節を行うリモコン機器です。
- 患者さんご自身で操作します。
- 痛みにあわせて刺激設定の変更や刺激装置のオン/オフなどを調節できます。
治療の流れ
脊髄刺激療法では、リードを試験的に挿入し、試験刺激期間中に患者さんご自身で効果を判定することができます(トライアル)。効果が確かめられた上で、体内に刺激装置を植込みます(本植込み)。その場合は、手術回数は2回、入院期間は3週間程度になります。医師の判断により1回の手術でリードと刺激装置を植込むこともあります。
ポイント
- リードだけを挿入して、効果を確認することができます。
- 効果が確認されてから刺激装置を植込みます。
- 3週間程度の入院が必要です。
1. 目標設定
痛みにばかり意識を奪われると、治療に満足することが難しくなります。治療の満足度を上げるためには、「痛みによって困っていることは何か?」と考えていき、患者さんご自身にあった治療の目標を設定することで、痛みの除去から、日常生活の改善へと意識を変えていくことが大切です。
ポイント
- 痛みの緩和だけでなく、日常生活が改善されることを目標にします。
- 具体的な日常生活の目標を設定します。例:孫を抱っこしたい、長時間座りたい、眠れるようになりたいなど。
- 痛みは半分程度にやわらげば成功とされています。
- トライアル記録表に目標を設定し、刺激期間に固化を判定します。
2. リード挿入(トライアル)
脊髄刺激療法の効果を確かめるため試験的にリードを挿入します。リードの挿入は、痛みの部位に刺激を一致させることが大切です。手術は局所麻酔下に行われ、実際に刺激を感じてもらい、先生と相談しながら最適なリードの位置を探していきます。
ポイント
- 硬膜外腔という脊髄を保護している膜の外側に挿入します。(硬膜外ブロックと同様です。)
- リードの挿入は局所麻酔で行います。
- 手術中に医師と相談しながらリードの位置を決定します。
- 痛い場所と刺激の場所が一致し、刺激が来たらリードを固定します。
- 効果がないばあいには簡単にリードを抜くことができるので、元の状態に戻すことができます。
- 刺激装置は効果が確認されてから植込まれます。
3. 試験刺激期間(トライアル)
リード挿入後、1週間程度の試験刺激期間を設けて、効果を判定します。よりよい効果を得るために患者さんが体外式神経刺激装置を操作して、さまざまな設定を試すことができます。その間、リードの位置がずれないように注意事項を守ってください。
ポイント
- リードの位置ずれが起こると効果がなくなってしまいますので、注意事項を守ってください。
- 積極的に様々な設定を試してください。
- トライアル記録表に痛みの緩和状況を記入してください。
- 刺激の変化や不快感がある場合はすぐに医師へ連絡してください。
- 試験刺激期間の目安は、1週間程度です(施設によって異なります)。
注意事項
・体を曲げたり、ひねったり、伸ばしたりしないでください。(腕を頭の上にあげる、肩を大きく動かす、ストレッチ運動など)
・体の向きを変えるときは、リードの位置がずれないように体をねじらず、肩と腰を一緒に動かしてください。
・2.5キロ以上の重たいものを持たないようにしてください。
・階段の上りおりや長時間着席することは極力控えてください。
・疲労を感じたらすぐに休んでください。
・傷口やリード、体外式神経刺激装置をぬらさないでください。
・試験刺激期間は、入浴やシャワーを控えてください。
・体の向きを変えるときは、リードの位置がずれないように体をねじらず、肩と腰を一緒に動かしてください。
・2.5キロ以上の重たいものを持たないようにしてください。
・階段の上りおりや長時間着席することは極力控えてください。
・疲労を感じたらすぐに休んでください。
・傷口やリード、体外式神経刺激装置をぬらさないでください。
・試験刺激期間は、入浴やシャワーを控えてください。
4. 刺激装置の植込み(本植込み)
効果が確認された場合、刺激装置を体内に植込みます。その際にもっとも効果が得られる設定が機器に記憶されます。安全情報の提供などが迅速に対応できるよう植込み登録を行い、手帳やカードをお渡しします。
ポイント
- 通常、刺激装置はなるべく目立たないような場所に植込まれます。
- 刺激装置の植込み後に、効果のあった刺激の設定をプログラムして記憶させます。
- 手術後10~12時間は、回復力を高めるためベッドに安静にしてください。
- 手術後2日間は、短時間の散歩などを行い、正しい姿勢を心がけてください。
5. 退院後のケア
刺激装置とリードが体の中で安定するまでは、注意事項を守ってお過ごしください。刺激装置が安定したら、植込み前と同じように生活を送れるようになります。退院後は、患者さんが患者用コントローラを使って痛みをコントロールします。
ポイント
- 術後6週間から8週間は、注意事項を守ってください。
- 患者用コントローラを正しく操作してください。
- マッサージや整体、激しい運動などは、担当医に相談してください。
- 外出や旅行の際は、手帳を携帯してください。
- 空港や金属探知機のゲートを通らなければならない場合は、手帳を提示して、手による検査を受けるようにしてください。
- 刺激がこないほどの異常を感じたときには、担当医の診察を受けてください。
術後6~8週間の注意事項
・試験刺激期間同様の注意事項を守ってください。※入浴・シャワーは再開できます。
・うつ伏せに寝ないようにしてください。
・自動車などの運転は避けてください。
・電動工具を使わないようにしてください。
・うつ伏せに寝ないようにしてください。
・自動車などの運転は避けてください。
・電動工具を使わないようにしてください。
注意事項
刺激装置が植込まれていても通常の日常生活に支障をきたすということはほとんどありません。しかし、一部の機器の使用や治療法の併用で刺激装置が影響を受けることがありますので注意してください。
併用できない医長機器・治療
次の医療機器は発熱による火傷や装置の破損の恐れがありますので、併用しないでください。
- ジアテルミー(温熱療法)
注意が必要な医療機器・知用
次の医療機器や治療は、注意して併用する必要があります。
- 心臓ペースメーカー
- 植込式/体外式除細動器
- 高周波アブレーション
- 電気メス
- 結石破砕装置
- CTスキャン
- MRI検査 など
注意が必要な設備
次の設備がある場所では、急に刺激を強く感じる場合がありますので、なるべく近づかないようにするか、あらかじめ電源を切って通過してください。
- 盗難防止装置
- 金属探知機
注意が必要な製品
一般的な電化製品は刺激装置に影響を与えることはありませんが、家電製品が強い磁気を発生している場合は意図しない刺激が発生することがあります。次の製品を使用する場合は刺激装置からなるべく離して使用するようにしてください。
- IH調理器
- 電気工具 など
携帯電話について
刺激装置の作動には基本的に影響はありません。気になる場合は、植込み部位から十分な距離(10センチ以上)をおいて使用することをお勧めします。
治療にかかる費用
脊髄刺激療法は健康保険の適用となっており、治療費が一定の限度額を超える場合、高額医療費制度を利用することができます。この制度を利用するためには、事前に健康保険組合に申請し、所得区分の認定証の交付を受ける必要があります。認定証を窓口に提示すれば、窓口での支払い額は下図の自己負担限度額までとなります。
※自己負担額は年齢や所得、医療費の金額によって異なります。詳しくはご加入の健康保険組合やお住まいの自治体にお問い合わせください。
※自己負担額は年齢や所得、医療費の金額によって異なります。詳しくはご加入の健康保険組合やお住まいの自治体にお問い合わせください。
- 認定証を病院の窓口で提示しなかった場合は、医療費の一部負担金を窓口で支払い、自己負担限度額を超えた分の払い戻しを健康保険組合に申請します。
- 通院の場合は医療費の一部負担金を窓口で支払い、自己負担限度額を超えた場合は、健康保険組合に払い戻しを申請します。
よくある質問
体に電気を流しても大丈夫?
電気は直接痛みの部位を刺激するので、体のほかの部分に悪い影響はありません。電気刺激で神経組織が傷つけられることもありません。微弱な電気なので関電したりすることはありませんのでご安心ください。
副作用はあるの?
脊髄刺激療法では、一部の薬剤のように眠気を誘ったり、吐き気をもよおしたりするような副作用はなく、ほとんどの患者さんに問題は生じていません。しかし、何か異常を感じた場合は、まず担当医に相談してください。
どんな感じがするの?
刺激の設定によって受ける感覚が変わってきますので、患者用コントローラをうまく使いこなしてください。
痛みは完全になくなるの?
脊髄刺激療法は、成功すれば痛みは半分程度にやわらぎますが、痛みが全くなくなるものではありません。脊髄刺激療法は痛みを緩和し、痛みで苦しんでいた日常生活を少しでも取り戻せるようにするものとしてご理解ください。
医療保険は適用されるの?
刺激装置とその主義には、1992年より医療保険が適用になっています。高額療養費制度を利用すれば、自己負担限度額までの費用免除となります。
植込み部位は目立ってしまうの?
刺激装置は、美容上あまり目立たない部位に植込まれます。患者さんの体格によっては、多少皮膚が盛り上がることがあるかもしれません。
運動はできるの?
刺激装置の植込み後6~8週間くらいはリードの位置ずれを防ぐための活動制限があります。それ以降は、基本的に運動の制限をする必要はありませんが、激しい運動は担当医に相談してください。
携帯電話など電磁波を出す製品は使えるの?
携帯電話を使うことは刺激装置に何の影響もありません。強い電磁波で急に刺激を強く感じることがありますが、日常生活における電磁波で故障することはありません。
故障するとどうなるの?
万が一、刺激装置が故障した場合には、電気刺激が止まり、緩和されていた痛みが再発します。ただし、刺激装置が止まったからといっても命に関わることはありませんので、ご安心ください。
電池の寿命はどれくらい?
刺激装置には、充電式、非充電式の2種類があります。使用する機器や刺激設定によって電池寿命は異なりますが、医師専用の機器で電池寿命の目安を調べることができます。電気刺激が感じられなくなったら、刺激装置に内蔵された電池が消耗した可能性がありますので、医師にご相談ください。
電池がなくなったらどうするの?
刺激装置に内蔵されている電池が消耗すると電池を交換するために再度、手術を行います。電池がなくなったことに気づいたら、担当医にご相談ください。電池残量は患者用コントローラで確認できます。
(日本メドトロニック株式会社 ニューロモデュレーション事業部発行「脊髄刺激療法ハンドブック」より抜粋。)
(日本メドトロニック株式会社 ニューロモデュレーション事業部発行「脊髄刺激療法ハンドブック」より抜粋。)